時代が哲学を創る [哲学]
おそれやおののきや不安が人間の心にわだかまることをヘーゲルとて否定はしない。しかし、それらは、人間の意識の全体から見れば、感情という低い次元に位置づけられるもので、個としての人間も、社会的存在としての人間も、そうした感情を克服することによって精神的な成長を遂げていく。キルケゴールは意識のそうした位階制に異を唱え、ヘーゲルが低次元とする感情のうちにこそ崇高な宗教性が宿ると考え、そこに人間心理の真実をうかがおうとする。
ちなみに、「不安」は、二十世紀に至って、ハイデガーやサルトルが人間存在の根底をなす心事としてふたたび大きくとりあげる。
この二人にとっては、社会のうちに安定した生活の場を見いだすヘーゲルの個人よりも、つねに不安と背中合わせに生きているキルケゴールの孤独な個人のほうが、親近に感じられたのである。
新しいヘーゲル
長谷川 宏(著)
講談社 (1997/5/20)
P175
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