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神戸 [雑学]

 神戸における奈良・京都式の観光資源といえば、なんといっても須磨である。いや須磨であろうと考えていた。
 そこには、源平合戦の哀史があり、古寺須磨寺がある。当然、神戸の人はそれを愛惜し、それに執拗な愛情を持ち、保存し、宣伝しているのだろうと思っていた。
 とは、大きな見込みちがいだった。神戸のひとは、自然に歴史をくっつけて愛惜するよりも、自然に人工をくわえて、歴史とは離れたあたらしい観光資源に仕立てようという欲望のほうが、はるかにつよい。
(昭和36年11月)

司馬遼太郎が考えたこと〈2〉エッセイ1961.10~1964.10

司馬遼太郎 (著)
新潮社 (2004/12/22)
P56


司馬遼太郎が考えたこと〈2〉エッセイ1961.10~1964.10 (新潮文庫)

司馬遼太郎が考えたこと〈2〉エッセイ1961.10~1964.10 (新潮文庫)

  • 作者: 遼太郎, 司馬
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/12/22
  • メディア: 文庫

 


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P103
道頓堀の「たこ梅」のおやじさんは傍若無人な人物だが、この人が生えぬきの大阪人であるというたった一つの理由で客から許されているし、東京でもたとえば築地の魚河岸のすし屋などは、代々の江戸っ子でないと客は尊敬しないのだ。
 神戸はそうではない。
 みんなが、それぞれの個性を持ち寄って、町のふんい気をつくりあげている。
~中略~
 つまり、町が気楽にできているのだ。たれも土地っ子であることを誇らないし、誇るのは無意味だとおもっている。みんながこの町の自由さを愛し、個性をまるだしにして暮らしている。
 そういうキサクさがこの町の魅力なのだ。~略
(昭和36年12月)

P115
 神戸の市民のよさは「芸術というのは市民社会にどのように用ウベキモノカ」という奇妙な智恵をもっている所にある。これはゆゆしき知恵で、日本では、おそらく神戸しか、この「智恵のフンイキ」はないであろう。
大阪は、明治以来、日本で最も多く画家や作家を出した町だが、町自体は、いつになっても、スミからスミまでどろくさい。芸術家を輩出させていながら、「芸術の効用」を知らない市民社会なのである。その証拠は、心斎橋筋を北から南まで一往復すればわかる。その店舗装飾のどろくささ、商品の安っぽさ、歩いている男女の服装のどろくささ、まったく、変な町である【もっとも私は、本心、そういう大阪が好きなのでありますが)。
 しかし、神戸の元町やセンター街は、違う。同じ摂津国にありながらどことなくアカぬけている。~略
(昭和37年2月)

P127
 神戸市は、須磨寺のあたりを境界に、東は摂津、西は播州にわかれている。旧分国の境界にまたがって成立した大都会は他に例がないが、それだけに神戸人の性格は複雑といえる。
上方的な繊細さと播州的な豪気さが、そのもともとの風土のなかにあるのだろう。
(昭和37年3月)

P279
 日本史上、神戸に大聚楽を作ろうと思ったのは、平清盛だけである。晩年、この巨大な政治家も、京都における政情のわずらわしさに倦み、かつ、かれは海外貿易(平家のお家芸であったし、それが平家をして天下をとらしめた経済的理由であった)に熱中していたから、
 ―やっぱり福原(神戸)や。
 とばかりに、福原遷都を断行した。が、それはさまざまな理由で無理で、このため、平家没落後はふたたび神戸は一漁村になった。
一つは、これは妄断だが巨大な人口をまかなうだけの水がなかったからではあるまいか。
(昭和38年1月)

P296
 京都人も神戸人も、他の都市人とちがうのは、自分の住んでいる町が日本で一番いいと思いきっている点である。
 東京や大阪は、稼ぎ泥棒の集まりのような一面があり、名古屋や福岡は、中央に対する劣等意識がつよい。
 が、京都人と神戸人はちがう。この町が一番いいと思っているし、町を住みよくきれいにしようという、西洋流の都市感覚がもっとも発達している。
~中略~
 神戸は、日本の六大都市の中では、もっともあたらしい都会である。幕末に、英仏蘭伊などの公使が幕府に「兵庫開港」をせまり、すったもんだのあげく実現した。いわば、西洋人がつくった町である。

P297
陳舜臣氏がいっているように、誕生のときからコスモポリタンの町なのである。こういう都市の成立は、日本ではほかに函館があるが、都市としての規模はくらべものにならない。
 この町の「見学」で、私はいろいろなことを知った。
 大阪人は安物買いがすきだが、神戸人は、上質のものがすきである。大坂人はドクドクしいデザインのものがすきだが、神戸人は、しゃれた見あきない美しさのものがすきである。
 大阪人は、値の安い二流品でがまんするが(市立の学校を作っても)、神戸人は、それが一流でないとがまんできない。~後略
(昭和38年3月)


司馬遼太郎が考えたこと〈2〉エッセイ1961.10~1964.10 (新潮文庫)

司馬遼太郎が考えたこと〈2〉エッセイ1961.10~1964.10 (新潮文庫)

  • 作者: 遼太郎, 司馬
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/12/22
  • メディア: 文庫

 


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