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コフートの自己心理学 [雑学]

  八〇年代以降のアメリカでは、さまざまな精神分析の流派の中でも、コフートの理論―「自己心理学」と呼ばれています―が、もっとも大きな存在感を持っています。
 ~中略~ とくに富裕層に属する患者からの人気が高く、経営的な面から見ても、現在のアメリカでもっとも成功している精神分析といっていいでしょう。もちろん、経営的に成功しているということ、それが治療法として有効であることを意味しています。

自分が「自分」でいられる コフート心理学入門
和田 秀樹 (著)
青春出版社 (2015/4/16)
P23


DSC_1785 (Small).JPG如意輪寺

P24
 八十年代以降のアメリカでは、コフート理論が受け入れられています。これは、コフートの精神分析が普遍的に正しいというよりは、その治療法が効果を上げるタイプの患者が増えたことを意味しているのでしょう。現在のアメリカ社会に多い「心の病」に、コフートのやり方が効きやすいということです。

P38
 前述したとおり、フロイトの精神分析は週に4回以上、しかも数年間も続きますから、患者とのあいだに濃厚な人間関係が生じるのは当然でしょう。そのため患者側は、分析家を親のように慕ったり、恋愛感情を抱いたりすることも珍しくありません。
 フロイトはそれを「転移」と名付け、治療に役立つものだと考えました。患者がどんな転移を起すかによって、その心のあり方がわかるからです。
 しかし、フロイトは分析家側が患者に特別な感情を持つ「逆転移」を厳しく禁じました。~中略~ 患者に好意を抱いてしまえば、相手のことを客観的に観察することはできません。
 それに対して、ツー・パーソン・サイコロジーは「客観性」を否定します。主観的に関わっても、それによって患者の心の状態が良くなるなら問題ない。と考える。そのためには患者と対等な関係性を持つ必要があり、そうなれば相手に何らかの感情を抱くのは当然だというわけです。
 実は、七〇年代の半ばに、アメリカの分析学界において、このフロイトの禁欲原則を破ってもいいと、事実上、最初に堂々と考えた人物こそが、ハインツ・コフートにほかなりません。
ちょうど、新薬の登場で自我心理学が窮地に陥った頃のことでした。
コフートは、こんあ意味のことを述べています。「ある種の逆転移が起こるのは当然のことだ。患者の気持ちに合わせて自分もその感情を体験してあげれば―つまり、共感してあげればむしろ治療に役立つ」
 かつて尊敬してやまなかったフロイトの原則を捨てるのは、かなり大きな決断だったことでしょう。一九七一年に発表した「自己の分析」は、この一大方向転換に基づいて書かれた論文だったわけです。

P40
 コフートの自己心理学は、患者の「無意識」をあれこれ詮索するものではありません。
フロイトの言葉でいうなら、観察するのは「意識レベル」や、せいぜい「前意識レベル」にある患者の心です。
 しかも、外科医のような立場で患者と接するフロイトとは違い、相手と対等な立場でつきあい、その心に「共感」してあげる。そういう交流によって、傷ついた患者の心を「育て直す」のがコフートのやり方です。
スポーツ指導者のように患者の自我を「鍛え直す」フロイトとは、かなり異なるアプローチだといえるでしょう。
フロイトの精神分析が「外科医モデル」だとすれば、コフートの理論は「母親モデル」や「親友モデル」に近いと考えて間違いありません。
 そして、これは現代人の心の問題にきわめてよくフィットする手法だと私は思います。

P56
コフートは、自己愛を二つのレベルに分けて考えました。フロイトの「自体愛→自己愛→対象愛」という発達モデルに加えて(当初はこれも認めていましたが、最終的にこれはありえないと論じます)、「自体愛→未熟な自己愛→成熟した自己愛(自己愛のより高度な形)」という三段階のモデルを考えたのです。
 人間は、誰でも「自分がかわいい」ものでしょう。コフートはそれを否定しません。ただし、ひたすら自分だけを愛するのは、フロイトがいったとおり、心が未熟です。しかし、他人を愛することを通じて自己愛を満たせるならば、もう未熟とはいえない。
それが、コフートのいう「成熟した自己愛」のみたし方です。

P99
「個の自立」を求めたフロイトにいわせれば、他人への依存を前提にした「心の成熟」などあり得ないという話になるでしょう。しかし、コフートは成熟した大人であっても、他人への依存が不要になることはないと考えました。
 そこには、おそらくフロイトとコフートの人間観の根本的な違いが反映されているのだと思います。簡単にいえば、フロイトは人間観の根本的な違いが反映されているのだと思います。
簡単にいえば、フロイトは人間が「強い」ものだと考えていたのに対して、コフートは人間は「弱い」生き物だと考えていた。別のいい方をするなら、フロイトにとって人間は一人でも生きていけるものだったのに対して、コフートは「人間は一人では生きていけない」と考えていたわけです。

P158
自己心理学でもっとも重要なポイントのひとつは、「相手の自己を尊重する」ことです。「患者の心を決めつけてはいけない」。それがコフートの残した最後の戒めです。
 これは、フロイトの自我心理学と決定的に異なる考え方でした。~中略~
 ですから、相手が怒ったときに「あなたは攻撃的すぎるところがありますね」などと責めるようなことをいってはいけません。そんなことをすれば、ますます相手の心が離れて、さらに共感が難しくなってしまうのです。




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