天水桶 [言葉]
江戸で地震がおいきると、大名などは、将軍様に「地震大丈夫でしたか」と、ご機嫌うかがいの使者を出さねばならない。しかし、どのぐらいの揺れの地震から使者を出すのかという問題がおきる。
震度一や二で地震見舞いを出せば笑われる。家屋が壊れる震度五以上なら、当然、地震見舞いをすべきだ。微妙なのが、震度三~四あたりの地震だ。~中略~
そこで考え出されたのが天水桶だ。天水桶の水は、おおむね震度四以上でこぼれる。
江戸の武家社会は、これを利用した。「天水桶の水がこぼれればご機嫌うかがい」を将軍様に出すことにした。「寛文十一(一六七一)年の江戸地震のあと、老中から諸役人までの規準になった」と岡山藩池田文庫の「御入国以後大地震考」には記されている(伊藤純一「江戸時代の地震計」「歴史地震」第二一号)。天水桶は江戸人の地震計であった。
~中略~
「御城(江戸城の将軍)げご機嫌うかがいを入れましょう」。岡本はその場にいた藩士の一人に指示した。「申(さる)刻(午後四時)前は御城へ使者を出す。申刻以降は用番の老中様へ使者を出すことになっているはずだ」。
泰平の世ではしきたりを知る者が力をもつ。
天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災
磯田 道史 (著)
中央公論新社 (2014/11/21)
P48
天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)
- 作者: 磯田 道史
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/11/21
- メディア: 新書
金剛峯寺
タグ:磯田 道史
コメント 0