養殖の矛盾 [社会]
現在の養殖はとても安定的に利益を生み出せる産業ではありません。現実に、廃業も相次いでいます。
では、なぜ、こうなるのか。それは、養殖の対象となる「価格が高い」はずの高級魚が、養殖が発展すればするほど「価格が安い」大衆魚になるからです。養殖魚がずっと高級魚のままなら、回転寿司では食べられません。
~中略~
利益が大きい養殖には新規参入者が増え、全体の生産量はどんどん拡大していきます。
並行して養殖技術が向上し、生産効率もさらに高まっていく。他方、それを販売する国内市場の規模は限定されているので、やがて飽和状態になり、供給量が需要量を超えるようになると値崩れを起します。
日本人が知らない漁業の大問題
佐野 雅昭 (著)
新潮社 (2015/3/14)
P77
P81
育成技術が進み、生産拡大とともに価格が下がり、大衆化する。それは養殖魚の宿命です。大衆化した養殖魚には天然魚にはない安定性、計画性、規格性があり、大量供給ができる。安く、大量に、低コストで、というニーズにピタリとはまります。
養殖という技術は、そもそも天然水産物に欠けている規格性や安定性など工業製品的な特長を水産物に付け加えるために発展した技術体系です。その結果、高級水産物としての希少性や価値を失う代わり、みんなから愛される大衆性を勝ちとってきたとも言えます。
今や、日本の水産物市場は養殖魚なしでは成り立ちません。養殖ブりや養殖マダイは安定的、持続的に食べ続けられる国民的商品になりました。
消費者にはこれらの「大衆魚」が必要ですが、養殖業は多くの矛盾をはらんだ産業であり、経営は綱渡りです。
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