アポトーシス [雑学]
アポトーシスとは「細胞の自殺」と呼ばれる営みのこと。もともとはギリシア語で木の葉や花びらが散る現象を指す言葉だった。
アポトーシスには厳密には、二つの種類がある。一つは遺伝子に組み込まれたプログラムによって、ある時期になると細胞が自然に消滅していく死。オタマジャクシの尾がしかるべき時期になくなる現象がこれにあたる。
もう一つは、こうした内に潜んだプログラムによらず、外部からもたらされる信号によって細胞が滅んでいく死。たとえば胸腺の中では、リンパ球のT細胞が厳しく選別され、不要とみなされたT細胞は自ら死を選ぶ。
また、がんになった細胞は、通常はキラーT細胞によって殺されると説明されているが、これも本当の死因はアポトーシスだ。
がん細胞は①キラーT細胞が放出するFasリガンド分子が、がん細胞の表面に現れる自殺スイッチのFasと結びつく②キラーT細胞がパーフォリンなどの細胞傷害性タンパク質を放出する―などのメカニズムによって死んでいく。
現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病
岸本 忠三(著), 中嶋 彰 (著)
講談社 (2016/1/21)
P218
現代免疫物語beyond 免疫が挑むがんと難病 (ブルーバックス)
- 作者: 岸本 忠三
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/01/21
- メディア: 新書
P073
細胞障害による細胞死は、一般的には壊死によるものです。しかし、障害の種類によっては、壊死でなく、アポトーシスで死んでいくこともあります。
その典型的な例はDNA損傷、DNAに傷がつくことです。大量のDNA損傷は壊死をひきおこしますが、中等度のDNA損傷はアポトーシスを引きおこします。
その典型的な原因は放射線です。 ~中略~
がんはDNA損傷の蓄積によってひきおこされます。言い換えると、細胞をDNAの変異を持ったままで活かしておくのは、発がんのリスクになるということです。
そんなリスクを抱え込むよりは、DNA損傷がたくさんはいった細胞には死んでもらいましょう、というのが病理的なアポトーシスの意義です。
また、抗がん剤のいくつかも、DNA損傷をひきおこす作用を持っており、腫瘍細胞をアポトーシスで殺していきます。
P075
アポトーシスの経路には二通りあることだけを説明しておきます。
その一つは、内因性の経路といわれるものです。
内因性経路では、ミトコンドリアに存在して、ATPの産生に関係するタンパクであるシトクロームCがひきがねになります。他にもBc1ファミリーという何種類ものたんぱくがミトコンドリアに存在して、アポトーシスを促進したり抑制したりしています。
ミトコンドリア、ATPの大量生産だけでなく、アポトーシスも制御しているって、生と死の両方を司っているみたいで、えらいぞっ。その昔、細菌だったミトコンドリアが、細胞にとりかこまれて共に進化しながら、どうやってアポトーシスに関与する機能まで獲得したんでしょう。進化のちから、ほんとうにおそるべしです。
もう1つは、外因性の経路です。TNFやFaaLというタンパクは、Death Receptor(なんと、死の受容体!)とよばれる細胞表面のタンパクに結合し、その細胞にアポトーシスを誘導します。
この受容体は、炎症細胞や免疫細胞の表面に存在しています。長期間にわたる強い炎症反応や免疫反応は、正常な細胞も傷害してしまいます。ですから、いきすぎないようにどこかでブレーキをかけてやる必要があるのです。そのためにこのような受容体が準備されていて、不要になった免疫細胞には死んでいってもらうわけです。
細胞に自殺を促すタンパクがあるって、クールすぎてちょっとびっくりしませんか?
こわいもの知らずの病理学講義
仲野徹 (著)
晶文社 (2017/9/19)
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