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唯識 [宗教]

P91
唯識では、わたしたちの五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)と意識という表層の六種の精神感覚作用の他に、深層意識(無意識)の領域での二種の働きを想定し、それをアーラヤ識、マナ識と呼びます。
「識」とは大ざっぱに心の働きのことです。
  第一に、アーラヤ識は深層意識の最下層にあって、自己と自己以外のすべての存在、つまり「世界を仮構」しています。
主体(自己)が在り、客体(対象)が在るという認識の基本構造は、「心理的な仮構・仮想にすぎない」わけです。
アーラヤ識は深層意識で働くので、主体(自己)の認識がそれにより仮構されたものだという事実には気づかない。つまり、すべての生物はその仮構する世界(つまり環境世界)こそが現実の世界だと思っているということです。
 アーラヤ識が世界を仮構する働きは、情報の種子(しゅうじ)として蓄えられます。
アーラヤ識は「情報集積体」とも意訳されますが、その情報は、まず「生命情報伝達」と「生命維持」の働きにかかわるものです。~中略~
 第二に、アーラヤ識の種子は、記憶された情報源として現在の認識や行動に影響しまう。
一方、わたしたちの五感と意識、それにマナ識、つまり七識を使った現在の行為(「現行」と呼びます)の影響は、逆にアーラヤ識に種子として刻印される。
この過程は、花の香がしみつくことに似ているので「薫習(くんじゅう)」といわれます。
現行と薫習がくりかえす相互影響は、一瞬一瞬生じては消え、起こっては消える活発な循環過程であり、行為は種子として記憶され、記憶はすぐに次の行為に影響するのです。
 現行と種子の相互影響は、コミュニケーションにおける情報と情動という二重の刺激さようにおいても観察できます。
たとえば認知症の人に強い情報刺激を与えると、「情報」として理解されずに、不安や怒りを起こす情動刺激の種子としてしっかり薫習されます。したがって不快な情動刺激を与え続ける家人は、ついつい攻撃や妄想の対象にされ、それが昂ずれば「人殺し」「泥棒」に変身させられるでしょう。
 さてマナ識は、アーラヤ識の働きを受けて、それを自我(私、私の、私に)へのい執着で汚染させるといいます。「自我への執着」という汚染は「根本煩悩」と呼ばれますが、この深層心理作用を分析しますと、どうしても自己(自我)という「実体」がいると思い込んでしまうこと(我見)、自己本位に思ってしまうこと(我慢)、自己に愛着・執着してしまうこと(我愛)、さらに、実はそのような自我が存在しないことに気づかないこと(我癡(がち)あるいは無明)から成り立っています。ちょっと分かりにくいでしょうか。
 つまり、「私」を「私以外」と峻別し、何をするにせよ自己に執着し、自己本位で、自己が永続的存在であるという深層意識が常時働いているということです。
~中略~
一般に痴呆症の男性は誇り高く、人間関係を結ぶことが下手で孤高を守ることが多いのです。
かつての大将とという方が認知症で入院された際、医師は入り口で「閣下、入ります」と挙手の礼をしたそうです。それは一面では矜持や誇りとも呼ばれますが、唯識にあてはめてみますと、自己が今も大将であるという思い込み(我見)、おれは偉いという考え(我慢)、そういう自己に気づかぬ我癡(無明)の表現といえます。

P150
 生物学的にいいますと、アーラヤ識は遺伝情報を伝えるだけではなく、世界認識(世界仮構)をも含めた、生命維持にもっとも基本的なはたらきをする仕組みです。
 生命維持のはたらきの一つは、外界からの刺激を受けとり、それに反応することです。刺激の種類を認識し、生命維持に適していれば受け入れ、不適当なら遮断する。

「痴呆老人」は何を見ているか
大井 玄 (著)
新潮社 (2008/01)

DSC_2804 (Small).JPG須佐神社

 結局のところ、わたしたちが体験するものはすべて、わたしたちの細胞とそれらがつくる回路の産物です。
ひとたび、いろんな回路が、からだの内側でどんなふうに感じられるか耳を澄ませば、あなたは世界の中でどうありたいかを選ぶことができます。
個人的には、恐れや不安を抱くときのからだの中の感じが大っ嫌い。こうした感情が押し寄せるとき、わたしはいてもたってもいられず、自分の肌から抜け出したいとさえ思います。
恐れや不安が引き起こす生理的な感覚が嫌なので、そうした回路にはあまり、つなぎたくありません。  わたしが一番好きな恐怖の定義は「誤った予測なのに、それが本当に見えること」。あらゆる思考が、単なる束(つか)の間(ま)の生理現象だということさえ忘れなければ、左脳の物語作家が「暴走」して勝手に回路につないでしまっても、慌(あわ)てる必要はありません。 宇宙とひとつであることを思い出せば、恐怖の概念はその力を失います。

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき
ジル・ボルト テイラー (著), Jill Bolte Taylor (原著), 竹内 薫 (翻訳)
新潮社 (2012/3/28)
P284


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