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ひきこもり [社会]

  「ひきこもり」は、英語の withdrawal の訳語といわれますが、斎藤環氏によれば英国インデペンデント紙は、"hikikomomori"とそのままローマ字表記をしていたそうですから、欧米にはなじみのうすい現象であることがうかがわれます。(註⑤)。隣の韓国で「ひきこもり」が注目されるようになってきてはいますが、その数はやはり日本に比べればはるかに少ないといいます。
また、東南アジアの貧しい国では、経済的に起こりえない社会現象であると指摘されている事実は注目されるべきでしょう。
「ひきこもり」は、統合失調症などの精神疾患にも見られるように、現実に適応できなくなったときに現れる自己防衛機制の一つと考えられていますが、この状態は精神疾患ではありません。高塚雄介氏によれば、最近増えている無気力症候群や境界性人格障害と重なる部分もあるものの、やはりそれらとは違う状態だといいます。
とすれば、現実場面からの意図的な自己逃避でしょうか。高塚氏は「明確な意思のもとに「ひきこもり」をしている」のでもないといいます。(註⑥)。
つまり、修験者が強い意思をもって世を避けるのとは違いますから、今のところ、ある種の社会的状況において生ずる「状態」あるいは「現象」としか言いようがありません。

「痴呆老人」は何を見ているか
大井 玄 (著)
新潮社 (2008/01)
P176

DSC_2828 (Small).JPG立久恵峡温泉

P178
 臨床的に見ると、「ひきこもり」には家庭内暴力のような問題行動が伴うことがありますが、あくまでも家庭内に限られ家庭の外に及ぶことはなく、また「ひきこもり」の脅迫症状と言われるものも、入院などの環境変化ですぐに消失します。
環境いかんで症状が左右される事実は、その症状が内発的疾患や深い心理的葛藤やトラウマに根ざしているのではなく、たんに状況に対する反応(過敏すぎる反応と批判する人もありましょう)として現れていることを強く示唆しています。
 「ひきこもり」を簡単にでも定義しておきます。厚生労働省の厚生労働科学研究事業「社会的引きこもり等へ介入を行う際の地域保健活動のあり方についての研究」(〇三年)によれば「社会的ひきこもり」(註⑧)の定義は、次のようです。
 (1)自宅を中心とした生活
 (2)就学・就労といった社会参加ができない・していない者
 (3)以上の状態が六ヶ月以上続いている
 (4)ただし、統合失調症などの精神病圏の疾患や中等度以上の精神遅滞を持つ者は除く
 (5)また就学・就労はしていなくとも、家族以外の他者(友人)などと親密な人間関係が維持されている者は除く
 普通の能力を持ちながら、社会からまったく孤立した姿が浮かんできます。
彼らの性格について、九五年から不登校・ひきこもりの支援をしている五十田(いそだ)猛氏は、「年齢を超えて、不登校やひきこもりの人に共通していることは、性格的なことです。
やさしい、おとなしい、まじめ、几帳面、正直、素直、内向的、細かい、考え深い、神経質、内気・・・・・」といい、これらをまとめて「繊細な人」と表現しています(註⑨)。
 しかしわたしには、これらの性格は典型的な「日本人の性格」、しかも伝統的な日本社会で好ましいとされてきた性格であるように見えます。ただし、彼らのカウンセラーが例外なく指摘しているように、きわめて傷つきやすいという特徴があります。
田中(住人注;田中千穂子)氏は「彼らのやさしさとも、か弱さとも、箋の細さとも、言葉ではどうにも表現しきれないほどの傷つきやすさ(脆弱性)を感じます」と述べています(註⑩)。

P180
 ひきこもっている状態での思考は、焦燥、不安、恥辱、怒り、恐怖などの強い情動の中での堂々巡りであることがうかがえます。その状態を氏(住人注;「「ひきこもり」だった僕から」の著者上山和樹)は正直に、鮮明に描写しています。
一言で言うとそれは、世界につながろうとしてつながれない人の情念、と言えましょう。わたしが痴呆状態にある人たちに観察したそれと、根本において同質なのです。

P194
 さて、「ひきこもり」には人間関係に対する怯えであるとか自信のなさというものが、つきまとうとしても、いったい何に対する怯えであり、何に対する自信のなさなのでしょうか。
人間関係とは言っても、その何を怖がっているのでしょうか。 私はその問題を解く鍵が、今日の社会が絶対的に重視している行動パターンと、それを推し進める価値意識の中にあると見ています・・・・・。
それは「自立」ということです。この「自立」の課題を早くから背負って生きる子どもや若者の中に、実は「ひきこもり」がじわじわと増えつづけているということに注目しなければなりません。


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