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規制強化は問題を解決しない [社会]

そもそも非正規の雇い止めが発生してから「非正規切りはけしからん」と企業を責め立てても、責められる企業も困ったはずだ。非正規社員を雇用の調整弁とすることを社会から認めれれている以上、この行動は企業にとって完全に合理的であるからだ。
同じく、非正規切りについて特段の対策を求めず、春闘で賃上げを求める組合の行動も、正社員の意見を代表する立場としては正当化されてしかるべきである。
非正規社員を増やした段階で、不況になるとこうなることは予測されており、だからこそ、企業も労働組合も非正規比率を上げてきたのだ。

競争と公平感―市場経済の本当のメリット
大竹 文雄 (著)
中央公論新社 (2010/3/1)
P159

競争と公平感 市場経済の本当のメリット (中公新書)

競争と公平感 市場経済の本当のメリット (中公新書)

  • 作者: 大竹文雄
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/04/03
  • メディア: Kindle版

P160
 問題が起きるたびに、それぞれに対し個別に手当てするという各個撃破は、結局「安定的雇用の減少と不安定雇用の増加」という構図をまったく解決しない。個別の規制強化は、より規制の弱い雇用形態への移転を生み出すだけで、絞り込まれた正社員は一向に増加しないのだ。パートへの規制が強化されれば派遣へ、派遣規制が強化されれば請負へ、請負への規制が強化すればヨーロッパでみられるような個人事業主との請負契約というかたちを模索するというように、抜け穴探しは永遠に続くことになる。
機械への代替や労務コストの安い海外への移転を通じて雇用量そのものも減少していくだろう。

P161
「非正規切り」に象徴される問題は何だろうか。
それは、雇用の二極化という不合理な格差が生み出す社会全体の不安定化であり、閉塞感である。
就職氷河期に卒業した特定の世代で、非正規社員が増加し、つぎの不況期に雇用調整を受け失業する。三十代は企業にとっても人材不足であるはずなのに、常に不況の波を受けて空洞化し続ける。
三〇~四〇年経って高齢化すれば、年金不払いなどのために膨大な貧困層となる。そして、その子どもの世代にも同じように貧困が波及し、世代間の不公平が固定化されてしまうことが問題なのだ。実際その萌芽が認められている。/p>

P162
「非正規切り」を問題だとするならば、その解決の先にある目標は二極化ではなく、良い仕事を増やす、つまり平均的な中間層を増やして経済全体の雇用量を安定的に推移させることと設定されるだろう。
そのために本質的に必要な手立ては、非正規雇用への規制強化ではなく、正社員の既得権益にメスを入れることである。
具体的には、正社員に与えられた強すぎる解雇規制を緩和し、正社員と非正規社員の間の雇用保障の差を小さくすることだ。たとえば「非正規切り」が正社員自身の雇用調整や賃金カットにつながる仕組みを作ることも一つの方法である。

P164
九〇年代、日本は物価がほとんど上昇しない時代になったため、賃金カットが非常に難しくなった。企業は早期退職の実施や新卒採用の停止、ボーナスカットや成果主義に名を借りた賃金改定など、あの手この手で労務費削減に手を打ったが、大幅な賃下げはなかなかできるものではない。
 その一方で強い解雇規制は残り続け、しかも〇三年には労働基準法が改正され明文化されたのである。正社員の解雇規制が強いもとで不況に対応するために、正社員の採用縮小と並行するかたちで労働市場の規制緩和がなされたのである。
 つまり、非正規雇用を雇用の調整弁と位置づけ、その増加をデフレ下の労務費削減ツールとすることで、正社員の解雇規制と賃金を守っていくという戦略に、経団連(日本経済団体連合会)と連合(日本労働組合総連合会)の利害が一致したのだ。少数の正社員の過重労働と、多数の非正規社員の不安定化という二極化が起きたのは当然の帰結である。

P167
 つまりは「非正規切り」の問題は、不況という負の経済ショックをを誰が負担するのかという問題なのだ。日本全体のパイが急激に縮小したショックを、非正規労働者が集中的に負担しているのが、いま起きていることである。

競争と公平感 市場経済の本当のメリット (中公新書)

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  • 作者: 大竹文雄
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/04/03
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