禍は口より出で、病は口より入る [処世]
人は最も当に口を慎むべし。
口の職は二用を兼ぬ。言語を出だし、飲食を納るる是なり。
言語を慎しまざれば、以て禍を速( まね )くに足り、
飲食を慎しまざれば、以て病を致すにたる。
諺に言う、禍は口より出で、病は口より入ると。
「言志録」第一八九条
佐藤 一斎 著
岬龍 一郎 編訳
現代語抄訳 言志四録
PHP研究所(2005/5/26)
P72
周防国分寺1
言は多きに勤めず。
その謂う所を審( あきら )かにするに務む。
( 「 大戴礼記 」哀公問五義篇のことば)
渋沢栄一 (著)
論語と算盤
角川学芸出版 (2008/10/25)
P11
処世接物の綱領
一、常に愛国忠君の気持ちを厚く持ち、公に奉ずることを忘れてはならない。
一、言葉は真心を込め、行いは慎み深く、事を取りさばき、人に接するには必ず誠意を持って臨め。
一、交わってためになる友を近づけ、損になる友を遠ざけ、かりそめにも己にへつらう者を友としてはならない。
一、人に接するには、必ず深い敬意を持ってせよ。宴楽遊興の時であっても、敬意と礼を失ってはならない。
一、そもそも事を成し、物に接するには、必ず「満身の精神」を持ってせよ。ささいな事であっても、いい加減に扱ってはならない。
一、富貴に驕ってはならない。貧賤を憂えてはならない。ただ知識を磨き、徳を高めて、真の幸福を求めようとすること。
一、言葉は禍福ともに引き起こす入り口のようなものだ。ほんのちょっとした言葉であっても、軽率に口にしてはならない。
渋沢栄一
山本 眞功 (監修)
商家の家訓―商いの知恵と掟
青春出版社 (2005/12)
P175
口舌は実に禍の起こる門でもあるが、また福祉の生ずる門でもある。
ゆえに福祉の来るためには、多弁あえて悪いとは言われぬが、禍の起こる所に向かっては言語を慎まねばならぬ。
片言隻語といえども、決してこれを妄りにせず、禍福の分る所を考えてするということは、何人にとっても忘れてはならぬ心得であろうと思う。
常識と習慣
渋沢栄一 (著)
論語と算盤
角川学芸出版 (2008/10/25)
P 97
自分が信じぬことは言わず、
知った以上は必ず行なうという念が強くなれば、
自然に言語は寡黙になり、
行為は敏捷になるものである。
「渋沢栄一訓言集」立志と修養
渋澤 健 (著)
巨人・渋沢栄一の「富を築く100の教え」
講談社 (2007/4/19)
P60
穏やかな気持ちにでいれば、おのずと徳が身につき、健康になる。
しゃべりすぎの人はいつも心が乱れるゆえに、徳を損ない、健康を損なう。
徳を損なうということと健康を損なうということは、同じものである。
養生訓 現代文
貝原 益軒 (著) , 森下 雅之 (翻訳)
原書房 (2002/05)
P41
二二 子曰わく、古の者( ひと )の言を出ださざるは、躬( み )の逮( およ )ばざらんことを恥ずれなばり。
~中略~
先生がいわれた。
「昔の人が口数が少なかったのは、実行がことばどおりにゆかないことを気にしたからである」
里仁篇
論語
孔子 (著), 貝塚 茂樹
中央公論新社 (1973/07)
P107
沈黙の美徳を身につけることは難しい。生まれつきの無口は弱点と言えるかもしれないが、私がここで言っている無口とは、計り知れないほど価値のある修得された能力のことである。
トマス・ブラウン卿は、二つのタイプの無口の差異を明確にし、次のように述べた。
「沈黙は愚か者の智恵であると思うなかれ。時宜を得た沈黙は弱点ではなく、寡黙の美徳を持つ賢者の名誉となる」。
寡黙の美徳とは、すなわちカーライルの言う「沈黙を守る偉大な天分」である。
ウィリアム・オスラー (著), William Osler (著), 日野原 重明 (翻訳), 仁木 久恵 (翻訳)
医学書院; 新訂増補版 (2003/9/1)
P190
【島井宗室】(一五三九~一六一五)―不言―
口がましく、言葉おゝき人は、人のきらう事候。我がためにもならぬ物ニ候。
~中略~
しかし、その秀吉に堂々と朝鮮出兵の非を説き、逆鱗にふれながら、やりすごし、ついに生命と財産を保った男がいる。博多商人・島井宗室である。
処世と言えば彼ほどの処世もない。島井は死に臨んで、自分の処世術のすべてを一七カ条の「遺言状」に書き残し、後継者に伝えている。(田中健夫「島井宗室」)。
冒頭の言葉はその第一条の一節。口は災いの元というが、厳しい世を生き抜くには口をつぐみ「人をうやまいへりくだり、いんぎん」にすることがこんこんと説かれる。
「以来、証跡(しょうぜき)に成候事ハ、人之尋(たずね)候共、申まじく」と、あとで証拠になりそうなことは人に語らない。
「人の褒貶、中言(告げ口)などハ、人の申候共、返事も耳にもきゝ入るまじく」、他人の善悪にかかわる噂話は聞かないように、と説く。
日本人の叡智
磯田 道史 (著)
新潮社 (2011/04)
P22
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