「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか [雑学]
さて、この信頼に関係するオキシトシンですが、その受容体の遺伝子スニップのひとつであるrs53576が「どれくらい人に共感するか」と関連するということがカリフォルニア大学バークレイ校心理学科のグループによって報告されました。
この研究によるとGGタイプの人はAAまたはAGタイプの人に比べて、「共感テスト」の成績が高いというのです。
さらに米国国立精神衛生研究所(NIMH)の研究グループによって、rs53576がGGタイプの人は、社会的報酬への依存性がAAタイプの人に比べ高い、ということが、報告されました。
「社会的報酬への依存性」の得点が高い人というのは、他の人に認められたりほめられることへの依存度が高い、という意味で、この種の人は、社交性が高く、社会的承認を求める気持ちも高い。また、社会的なフィードバックからの学習能力も高い。
つまり、他の人からの意見に耳を傾けて自分の行動や態度を変えたりする傾向が強いという特徴がある。
一方、「社会的報酬への依存性」の得点が低い人は、社会的に孤立しがちで、冷たい人間関係を築きやすい傾向にあるそうです。
「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか―パーソナルゲノム時代の脳科学
宮川 剛 (著)
NHK出版 (2011/2/8)
P173
「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか パーソナルゲノム時代の脳科学 (NHK出版新書)
- 作者: 宮川 剛
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2016/11/30
- メディア: Kindle版
P178
クロニンジャー博士は、新奇性探索にはドーパミン、損害回避にはセロトニン、報酬依存にはノルアドレナリンが、それぞれの気質を特徴づける神経伝達物質であるという仮説を提唱していますが、これは日本でも一般にずいぶん普及しているようです。
しかしながら、この仮説はそれなりの生物学的な証拠にもとづいてはいるものの、かなり大雑把なもので、ことを単純化しすぎているということが近年明らかになてきています。
~中略~
さらにいえば、ドーパミンD4受容体のrs1800955が新奇性探索の気質を説明する割合もたかだか3%で、他の分子をコードする遺伝子の影響を足したものの影響力の方がはるかに高いのです。
~中略~
ですから、「ドーパミンタイプの性格」とか「セロトニンがすくないタイプの人」というような表現は、あまり科学的とはいえません。
「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか パーソナルゲノム時代の脳科学 (NHK出版新書)
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犯罪心理学者のレインは、双子を対象とした研究の結果、子どもの反社会的行動の40%から50%は、遺伝によって説明できると主張しています。
さらに、両親、教師、同世代の友達という3者の情報提供者の評価を平均して、対象となる子どもが実際どのように行動しているかを抽出したところ、環境要因はわずか4%にすぎず、残り96%が遺伝によるものであったとしています。
~中略~
個人の幸福度には遺伝的な影響があるのでしょうか?あるとすればその影響はどの程度なのでしょうか?
行動遺伝学者のリッケンとテレゲンらのグループによって行われた「幸せな双子の研究」と呼ばれる有名な双子研究があります。彼らはミネソタ双生児登録からデータを入手し、ミネソタ州で生まれた双子たちを追跡調査しました。
その結果、一卵性双生児のうちのひとりの幸福度を調べれば、もうひとりの幸福度の値がほぼ推定できる、ということがわかりました。
一卵性双生児の幸福度は、環境が違っていてもにかよっていたのです。また環境要因として、収入額、配偶者の有無、職業、宗教などについても調査されています。
収入額が幸福度の変化に与える影響は2%以下、配偶者の有無が与える影響は1%以下でした。職業、宗教の影響が小さいことも明らかになりました。
空気を読む脳
中野 信子 (著)
講談社 (2020/2/20)
P186
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