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正直に行動し、他人を信頼すること [処世]

武士道に代表される統治の倫理とは、結局のところ、社会体制を維持するために権力者が守るべき道徳律に他なりません。
人々から権力者として畏敬・尊重されるためには、利益に惑わされず、公平無私の心を貫き、秩序や伝統を尊重する精神が必要とされます。そこで生まれてきたのが統治の倫理であり、武士道であるというわけです。
 これに対して市場の倫理とは、権力に頼ることなく、お互いに繁栄していくためにはどう行動していくのがいいのかと考えたときに生まれたモラルの体系であると言えるでしょう。共存共栄のためには、おたがいに嘘をつかず、信頼しあい、利益を分かち合う姿勢こそが必要であると説くのが商人道であり、市場の倫理であると言えます。
~中略~
 大事なのは、正直者であることが損にならない社会制度を作っていくことであって、そうした社会制度をきちんと整備することができれば、あとは「正直に行動し、他人を信頼することが結局は自分のためになるのだよ」という世の中の現実を教えさえすれば、商人道は自ずから普及していくのではないでしょうか。

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点
山岸 俊男 (著)
集英社インターナショナル (2008/2/26)
P256

DSC_6266 (Small).JPG 犬飼石仏 石仏道踏切

【橘曙覧】(一八一二~一八六八)―正直―

 うそいふな。ものほしがるな。からだだわるな。

~中略~
 冒頭は彼が子に与えた遺言。「だわるな」は福井の方言で「だらけるな」という意味である。彼は豪商の生まれだが弟に譲り、あばら屋に棲み、極貧のうちに暮らした。殿様の松平春嶽が招いても仕えなかった。とうとう殿様自らあばら家を訪れたがその暮らしぶりをみて驚愕した。~中略~
 彼は自分に正直に暮らした。「ものほしがるな」といったが、物をもらうと正直に喜んだ。うそをつかぬのは人のためでなく自分のため。
素直に生きれば心安らかになれる。物に乏しい時、願いがかなわぬ時、ふと与えられると、うれしい。彼はそのささやかな幸福感を味わうことにつとめた。こうも詠んでいる。 <たのしみは朝おきいでて昨日まで無かりし花の咲ける見る時>

日本人の叡智
磯田 道史 (著)
新潮社 (2011/04)
P90



 また、江戸時代人の徳目では「正直」「正路(せいろ)」といったものが重視されます。日本の昔話がほとんど正直であることを徳目として掲げているように、正直ということは、特に庶民道徳において最も重視されました。これは江戸時代に限ったことではなく、千年単位の長期にわたって、日本人の重要な徳目とされてきたようです。

「司馬遼太郎」で学ぶ日本史
磯田 道史 (著)
NHK出版 (2017/5/8)
P122


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