お目こぼしの統治 [日本(人)]
海音寺 前略~
江戸幕府は制度としてはまことに悪い。法律も不完全をきわめています。しかし、あの悪い制度と不完全な法律とをもってしながら、二百五十年間も平和を保って来られたのは、よほどに運用が巧妙だったのですね。
江戸時代には関所が各地にありましたね。そして、そのために実にきびしい法律が立てられていましたね。関所破りはハリツケですからね。
今日考えると、人民はよほど不便であったろうと思われるのですが、そこには手心があって、関所の外の茶屋などで通行手形を売っていることがあり、手形がなくても、向こうの村で親兄弟が病気で死にかけていますので、ついあわてて手形を貰って来なかったなどと言えば、関所では本人の様子をみて、さしつかえない人間と判断すれば、「ならん、ならん、ならん、お関所を何と心得ているのだ」といって胸を押しながら、向こうのほうへ突出してくれたというのですからね。
法はたてまえとして立てておく、しかしそれは必要な時だけに発動させ、他の場合は手心をもって加減したのですね。
手心を用いるのですから、そこには相当な汚職の余地がありもしたでしょうがね。
新装版 日本歴史を点検する
海音寺 潮五郎 (著), 司馬 遼太郎 (著)
講談社; 新装版 (2007/12/14)
P146
タグ:海音寺 潮五郎
2019-12-03 08:15
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