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言葉の中央集権主義 [言葉]

P185
 東北地方の人が言葉の問題で苦労するとき、それは決して、私たちがベトナム語を習得するときの「苦労」の次元と同じではない。
東北なまりを苦にして自殺する例さえあるのは、単に共通語(いわゆる標準語)が完全に話せないからではなく、そこに差別があるからであり、侮辱を受けるからであり、誇りを傷つけられ、すべての人に当然あるべき尊厳を奪われるからなのだ。
方言は「下等」で”標準語”は「高級」だという誤った価値観がなければ、言葉によって殺されることはありえない。
関西の人々は一般に平然と関西弁を使う。関西弁を苦にして自殺した例などきいたことがないし、考えられもしないのは、関西が日本文化の旧・主流であり、その方言が旧・標準語であったことによる誇りがあるためであろう。
東京弁などは成り上がり者の洗練されぬ野卑な新興語だとさえかれらは思っている。  

P228
 したがって日本語を「美しく」などと設問しても、実態は日本語の「主流」たる東京弁や関西弁を基準とするモノサシで考えているにすぎないことが圧倒的に多いのではなかろうか。
さらに「豊かにする」となると、総理府や文部省はむしろ逆のことを考えている可能性がある。
つまり信州であれ東北地方であれ長州であれ飛騨であれ、全く言うまでもないことながら、そこで話されてきた言葉はすべて日本語だ。これらの中には、東京弁や関西弁ではどうしても言いあらわせない微妙な言葉がたくさんある。
全日本のこのような日本語(地域語とか生活語とか言えようが、方言とは呼びたくない)をすべてとり入れたら、日本語は今よりもはるかに豊かになるだろう。

実戦・日本語の作文技術
本多 勝一 (著)
朝日新聞社 (1994/09)
  

 

実戦・日本語の作文技術 (朝日文庫)

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  • 作者: 本多 勝一
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 1994/09/01
  • メディア: 文庫



IMG_0002 (Small).JPG大正屋椎葉山荘
タグ:本多 勝一
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