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貯え [倫理]

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八 子、衛の公子刑( けい )を謂( のたま )わく、善く室を居( たく )わう、始めて有( と )むときは苟( いささ )か合( た )れりと曰い、少しく有むときは苟か完( まつた )しと曰い、富( おお )いに有むときは苟か美( よ )しと曰えり。


子路篇


                  論語

           孔子 (著), 貝塚 茂樹

                       中央公論新社 (1973/07)

                       P359

 

 

論語 (中公文庫)

論語 (中公文庫)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1973/07/10
  • メディア: 文庫

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P231
人が貯蓄を始めるのは、一にはその人に先見の明があるや否やを示すものである。
前途も何も見ず、ただ得たものを貯えるは、これ吝嗇(りんしょく)である。 座右に財宝を山のごとく積む、この積むことを楽しみとするは、あえてゆえなく人の財を掠奪するのでなく、したがってこの楽しみを享(う)けても何の差し支えもないようではあるが、ややもすれば、この楽しみは他人に害を与えることがある、決して褒めたことでない。
 しかし、後日の不足を補うために、予め貯蓄することは、よほど頭脳の進歩した者でなければできぬ。

P236
人には三段の種類がある。第一は、余力があればただちにこれを乱用する者で、これすなわち最も劣等なる徒である。
第二は、乱用することを恐れて、なるべく余力なようにし不足なるを喜ぶ者、これは中等の人。
第三は、余力あればなおさら節度を守り、今日必要でないものは、他人あるいは後日のためにこれを貯蓄する者、これは最上である。
人はここに達せなければ、いまだ動物の縁に近い人間たるを免れぬ。~中略~
 かくいうものの僕がここに貯蓄というは、必ずしも物質的あるいは金銭貯蓄に限るものでない。
人間のあらゆる勢力に応用のできるものである。
ゆえにこの思想に一歩を進めて、具体的に説明すれば、第一に金銭の貯蓄はむろんとし、第二に体力の貯蓄ともなり、第三には知識の貯蓄ともなり、第四には精神的勢力の貯蓄ともなる。 これらはいずれも人が世に処する上において、最も大切であるから、以下逐時にこれを説明する。

P244
アメリカのジョンズ・ホプキンズ氏は最高学府の大学を創立するために、六百万円を寄付し、またアメリカに最も完全な病院を建設するために、千万円を寄付した人である。
氏はこの資金を貯蓄して、この二大目的を達するために女房をめとらず、五セントの電車にも乗らなかった。 氏と心やすい銀行家が「あなたも年をとられたし、遠方に行かれる時は、馬車に乗らなくとも、せめては電車に乗ったらよかろう」と衷心より親切をもって勧めたとき、氏は「いまだ大事業がある、いまだ大事業がある」(I've a great work to do.)と独り言のごとくに二回繰り返して答えたという。
最高の学府を設けて、幾千の青年に知識を与え、従来にない完全した病院を設けて、幾万の患者を救いたいという偉大な目的を懐抱し、吝嗇という悪口を甘んじて受ける者は、周囲におる寄生虫のような子分や、茶屋の女中などに、金の使いようが綺麗であると褒められて、得意となる人に比し、誰かその偉大を思わぬ者があろう。

修養
新渡戸 稲造 (著)
たちばな出版 (2002/07)

修養 (タチバナ教養文庫)

修養 (タチバナ教養文庫)

  • 作者: 新渡戸 稲造
  • 出版社/メーカー: たちばな出版
  • 発売日: 2002/07/01
  • メディア: 新書

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