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茶道 [雑学]


茶道は貴婦人の居間に浸透したし、身分いやしい者の栖(すみか)にも入った。われわれの田夫は花を活(い)けることを知り、野人も山水を尚(たつと)ぶことを知るようになった。
人がその人生の劇に起る厳粛にして滑稽な関心事に無感動であるならば、われわれはそういう男を、俗に「茶気がない」と言う。逆に、浮世の悲劇に無頓着に自由奔放にはしゃぎまわる抑制のない審美家には、「茶気がありすぎる」という烙印を押す。

茶の本
岡倉 天心 (著),桶谷 秀昭 (翻訳)
講談社 (1994/8/10)
P14


英文収録 茶の本 (講談社学術文庫)

英文収録 茶の本 (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1994/08/10
  • メディア: 文庫

 







DSC_2075 (Small).JPG上野ファーム

P34
 日本の茶の湯にわれわれは茶の理想の頂点をみる。一二八一年の蒙古襲来を首尾よく撃退したために、わが国は、中国がこの遊牧民族の侵入のために不幸にも断たれてしまった宋の文化運動を継続することができたのである。
茶はわれわれにとっては、飲む形式の理想化以上のものとなった。それは生の術の宗教である。その飲料は純粋と精巧にたいする崇拝の口実となり、主人と客が一緒になって、この折に現世の無上の幸福を作りだす神聖な役割を果たすものとなった。
茶室は生存の寂寞たる荒野の中のオアシスであり、疲れた旅人はそこに出会って、芸術鑑賞という共同の泉から渇きをいやすことができた。茶の湯は、茶、花、絵画を素材に仕組んだ即興劇であった。茶室の調子を乱す一点の色もなく、物事のリズムをそこなうもの音一つ立てず、調和を破る身の動き一つなく、周囲の統一を破る一言も口にせず、すべて単純に自然に振舞う動作―こういうものが茶の湯の目的であった。そしていかにも不思議なことに、それがしばしば成功したのであった。そのすべての背後には微妙な哲理がひそんでいた。茶道は変装した道教であった。

英文収録 茶の本 (講談社学術文庫)

英文収録 茶の本 (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1994/08/10
  • メディア: 文庫





タグ:岡倉 天心
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