魚島(うおじま) [言葉]
言葉でいうと、大阪あたりには魚島(うおじま)という言葉がある。陽春の季語でもある。
魚が内海の底で冬ごもりしているのが、海面が暖かくなるにつれ、明石から淡路あたりに出てくる。タイなどは、節分から八十日のあいだに日ましに色の紅さがあざやかになり、肉もついてきて、味がうまくなる。
魚島というのは島をあらわす地理的用語ではなく、魚が美味になるという季節をあらわす時間的な用語なのである。
私は魚が格別好きではないのが、春になって魚好きの連中から「魚島」という言葉を聞くと、自分の唾液までつられてしまうような豊かさを感ずる。その魚島の根拠地のひとつが明石の海浜なのである。
街道をゆく (7)
司馬 遼太郎(著)
朝日新聞社 (1979/01)
P97
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