タチウオ [雑学]
釣り師がタチウオを語るとき、必ず言うのが「この魚は幽霊魚(ゆうれいぎょ)だからね」というフレーズ。
つまり、出たり消えたり、神出鬼没ということ。
釣り的にいうと、昨日爆釣していたのに、今日はまったく姿形も見えないなんてことはザラにある。しかも、一日のうちでもいたと思ったらサッと姿を消す。タナ(魚のいる水深)も深くなったり浅くなったり、だから、船長は魚探(魚群探知機)とにらめっこをして右往左往する。
東京湾の夏のタチウオ釣りは水深二十メートルくらいの浅場の釣りになる。
~中略~
タチウオは魚のなかでもかなりヘンな魚である。どう猛なのに繊細。ルアーのジグ(金属の疑似餌)にあれほど猛然とアタックしてくる。だが、エサ釣りとなると一転して臆病な乙女のように恥ずかしげにエサをちょっと触っては離し、ちょっと触ってはかじり、最後には狡猾な年増女のように、釣り師にはわからないうちにエサをかすめ取っていく。
さらにヘンなのは、全員が水面方向に向かって立って泳ぐことだ。全員といったのは彼らは群れで行動することが多いから。
細長い文字通り太刀のような光る魚体をもったタチウオたちが、みんな整然と立ち泳ぎしている。 ~中略~
ともかく、そのどう猛な牙と、どこかイッちゃってる焦点の合わないまん丸な目がやっぱりヘンな魚だ。
ヘンといえば、その食味。塩焼きにしてこんなに美味しい魚はない。脂がジュージューと滴り落ちてこんがりときつね色になった身にかぶりつくと、塩味の効いた上質な脂の甘みが広がる。刺身、煮付け、唐揚げでも美味しい。まったく外観とは合わない旨さだ。
つり道楽
嵐山 光三郎 (著)
光文社 (2013/4/11)
P54
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