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潟(かた) [言葉]

「潟(かた)」
 という日本語はよほど古いものらしく、「万葉集」にも紀州の和歌の浦の潟を読んだ歌として「若(わか)の浦に潮満ち来れば潟を無(な)み葦辺さして鶴(たず)鳴き渡る」というのがある。
 潟とは、この歌がその地理的特徴を的確に言いあらわしている。河川の河口などで海が、河川が流す土砂のために遠浅になっており、そこに潮が満ちてくる、「潟を無み」でもって海に化してしまうが、潮が干(ひ)ると洲になって現われる場所をいう。
 いまの新潟市付近の地図をみると、潟の文字のついた地名がひどく多い。私の知人の新潟県人は、
「北、中、南の三つの蒲原(かんばら)郡は、ほとんどがかつては潟か沼だったといってもいいです」  という。かつて潟だった土地が信濃川や阿賀野川の活動で潟がうずまって自然に野になってしまった土地―たとえば新潟市のように―もあるが、新潟市の南郊の亀田郷ように、人間が他から泥を運んできた水中に投げ入れ、永年それを繰りかえしているうちに陸も沼ともいえぬ異様な水田耕作地になったというようなところもある。
 要するに新潟県というのは、大河の大河口にちかい野は、新潟市をふくめてかつては潟であった。満潮のときには、いまの新潟市などは海底にあったかと思える。

街道をゆく〈9〉信州佐久平みち
司馬 遼太郎 (著)
朝日新聞社 (1979/02)
P13

DSC_6235 (Small).JPG金峯山寺


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