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プラセボ効果 [医学]

P299
「プラセボ」は、「わたしが喜ばせよう」という意味のラテン語からきている。
一四世紀には、葬式で死者のために泣き、涙を流す役に雇われた泣き屋を指すことばとして使われた。
一七八五年には、「新医学辞典」に登場し、瑣末な医療行為のひとつに加えられた。


 医学文献に記録が残っているごく初期のプラセボ効果の例は、一七九四年のものだ。
イタリアのジェルビという医者がおかしな発見をした。ある虫の分泌液を痛む歯に塗ったところ、痛みが一年間消えたのだ。



~中略~
 ジェルビと虫の分泌液について一部始終はわからないが、この分泌液と歯痛が治ったことになんの関係もないだろうことは想像がつく。肝心なのは、ジェルビは自分が患者を救っていると信じ、患者の大半もそう信じたことだ。


P301
 じつはプラセボは暗示の力で働く。プラセボが効果を発揮するのは、人々が信じるからだ
。主治医を見ればよくなった気がする。薬を飲めばよくなった気がする。
主治医が高い評価を受けている専門医だったり、処方箋の薬が新しい特効薬か何かだったりすれば、ますますよくなった気がする。


P307
二ドル五〇セントのときは、実験協力者のほぼ全員が薬による痛みの軽減を経験した。
ところが、価格が一〇セントにさがると、痛みが軽減した人はたった半分になった。


 さらに、価格とプラセボ効果のこの関係は、すべての実験協力者で同じわけではないことがわかった。最近の痛みの経験が多い人に、価格による効果がとりわけ強く現れた。
つまり、より痛みを経験し、そのため、より鎮痛剤に頼った人では、価格とプラセボ効果の関係がより強調されていた。


薬の価格が安いと、ほかの人よりさらに少ない効果しか得られなかったのだ。
とすれば、こと薬となると、支払った分に見合うものが手にはいると言える。価格は経験を変化させる場合があるというわけだ。


予想どおりに不合理[増補版]
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早川書房; 増補版版 (2010/10/22)




予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 増補版

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P161

 医学部の三年生のときにそういうこと(住人注;長い時間経たないと、本当にいいかどうかは分からない)考えていたら、ある教授が臨床講義で、「新薬が出たら、それが効く間にできるだけたくさんの患者を治しなさい。すぐに効かなくなるから」とおっしゃったの。偉い先生ははちゃんと当時から知っていたんだね。新薬は出たときはよく効くけれど、しばらくすると効かなくなる。

それはなぜか。

 結局、何が言われているかと言うと、プラセボ・エフェクトなんです。偽薬効果。おそらくみなさんは、プラセボ効果があると科学的におかしいと、勉強して知っているでしょう。
だからプラセボ効果をいかに排除するか、二重盲検法や何かでプラセボ効果が起こりにくいようにして、それを排除して、引き算して、薬の薬効を決める。そうすると科学的だということを知っています。それはその通りですね。

 しかし、これを治療される患者の側から見ると、プラセボによって治ったから価値がなくて、本当の薬効で治ったから価値があるということはないのよ。よくなりゃいいんだから。~中略~

 そうすると、プラセボ・エフェクトとは何か。これは結局、本人の精神的な部分が身体に影響を及ぼして、あるいは身体が勝手によくなっている、ということです。

何かの理由でよくなっているんだから、これはもちろん自然治癒であり、暗示療法、心身相関で、患者にとってはより幸せなんです。三〇パーセントから五〇パーセントぐらいは、プラセボ・エフェクトで治療の効果があります。




P055

 プラセボ効果は自然治癒力の純粋な現れである。また、心身相関の確証でもある。医療のあらゆる場面でプラセボ効果が見られる。

だから、すべての病気に心身相関がかかわっていると前提してよい。プラセボ効果を援助し妨げないことが医療の効果を高める。プラセボ効果は治療者との絆によって発動される。

厳密にいうと、絆の幻想によって発動される。

医者自身が病んで患者となったときの体験を思い返してほしい。

医者はこの幻想を援助する目的で、絆の現実を提供する。これがあらゆる精神療法の基盤であり、医療の効果を高める技術である。



P059

 プラセボ効果というのは、あらゆる治療においてあります。外科手術でもプラセボ効果があります。

具体的に言うと、ガンの手術をして、開けてみたら、もう末期でどうにもならなくて、すぐ閉じた。それでも「悪いところは取りましたから」と言うと、患者の気分が明るくなって、食欲が出てきて元気になる。

ガンがおおきくなるから長くは続かないけれど、しばらくの間は調子がいい。だから外科手術にだって、プラセボ効果はある。何にでもあるんです。



P065

 プラセボ反応というのは、すべての臓器、生体全体に対する治療で役に立ちます。それでシャーマンの治療というのがある。
シャーマンの治療とそうでない現代の治療とで、急性期のものについてすら、そんなに治療成績が天と地ほどには違わないかもしれないという話はあちこちであるんですね。

現代医療は副作用も多いしね。シャーマンの治療はあまり副作用がない。

香をたいたり、お祈りしたり、いい音を聴かせたり、みんなでさすったり、するような治療で、あんまり副作用がないから、それによって自然治癒力が賦活されていく、あるいは保護されていくということで、ずいぶんシャーマンに類似した治療が今でも行われています。

医者という存在自体がそういう作用を持っているんです。



神田橋條治 医学部講義
神田橋 條治
(著), 黒木 俊秀 (編集), かしま えりこ (編集)
創元社; 初版 (2013/9/3)


神田橋條治 医学部講義

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  • 発売日: 2013/09/03
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 さて、もっとおもしろいことには、プラシーボ効果の逆の効果もあるのです。
 その名も、「ノーシーボ効果」。
 偽薬の服用をやめたとたんに症状が悪化したり、副作用のないはずの偽薬の副作用が出現してしまったり、というものです。

脳はどこまでコントロールできるか?
中野 信子 (著)
ベストセラーズ (2014/8/19)
P151

脳はどこまでコントロールできるか? (ベスト新書)

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 この偽薬効果は、薬を錠剤の形で与える場合、小さな錠剤よりも大きな錠剤の方が、一錠よりも二錠の方が、効果は強く出現する。
また、口から飲む錠剤よりも、注射の方が、その注射も痛い注射の方が有効であるといわれている。
 このような偽薬効果の出現は、決してむずかしい理由によるものではない。「痛みを止める薬を投与してもらった」という実感を、患者に認識させたことがこの痛みを軽減させた唯一の理由である。
~中略~
有名な医師の診察を受けたらよくなったというのは、プラシーボ効果であると考えて大きな誤りはない。
 フィンネソン(一九六九年)は「痛みの診断と治療」と題した本の中で次のように述べている。
 「外科手術は医学のなかでもっとも強力な偽薬効果をもっている。十分な術前処置、麻酔による無意識、身体のなかの重要な器官の摘除あるいは処置は、すべての患者に不可思議で深遠な情動効果を与える。このような効果にはもちろん患者間で大きな差があるが、どのような大きな外科手術の結果を評価するにあたっても、この偽薬効果を必ず考慮に入れなければならない。
 神経外科学の傑出した先駆者であるある著名な一人の医師は、器質的な原因はないと彼の信じた腰痛の患者の場合に、ときどき患者に、椎弓切除術(椎骨の手術)の準備をして、麻酔をかけ、ついでに皮膚切開だけですぐに縫合した。いく人かの症例は、この方法により”治癒した”と報告されている」(中村嘉男監訳「痛みへの挑戦」、三九二ページより引用)


痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る
柳田 尚 (著)
講談社 (1988/09)
P163




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