殯(もがり) [日本(人)]
殯というのは、死後その人間の遺体を一定期間地上に安置することをいう。そのためにかりの宮を建てる。これを殯宮といった。
遺体は、その殯が過ぎてから埋葬された。
~中略~
「日本書紀」に記されている前述の天武天皇の場合が参考になる。天武天皇の殯期間は二年二ヵ月の間続き、そのあとになって遺体が埋葬された。
その間、亡くなった天武天皇の生前の功績を称える「しのびごと」が奉られ、同時に死をいたむ「発哭」(みね)(「奉る」の意)の儀礼が繰り返しおこなわれている。
しかも注意すべきは、その殯の全期間にわたって仏教僧が参加しているという点だ。
~中略~
つまり、殯の状態に置かれた遺体は、生理的には死の兆候を示しつつも、しかし社会的にはいまだ完全に死の宣告を下されてはいない。さきに、死と生の間の宙ぶらりんで不安定な状態といったのもそのためである。
私は殯という観念に包まれた特殊な状態は、霊と肉の分離が徐々に進行している状態をいったものだと思う。
~中略~
その霊肉分離の最終判断が下されるのが、埋葬のときであったと思う。
山折 哲雄 (著)
天皇の宮中祭祀と日本人―大嘗祭から謎解く日本の真相
日本文芸社 (2010/1/27)
P99
高野山奥の院 御廟の橋
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