拙速と入念精美 [ものの見方、考え方]
裁縫は二た通りにする。不断着は拙速で事足り、いいものは入念に時間をかける。
不断着は清潔第一とするからしばしば交替せねばならぬ、しばしば着かえるには手入れは敏速にせねばならぬ、敏速の実を挙げるためには拙はまた已むを得ない、一寸三針五分一針結構という。
その代わり、いいもの、男物はそうは行かない。男はよそで衣服を脱ぐ場合もままある、脱いだ衣服の始末は必ず他家の子女の手にかかる。
また特にいい着物を着て出る場合は、同座する者もまたきっと綺羅を張っている、すなわち品評会である。ものがよければよいだけに、粗相粗雑な針目は目に立って屈辱この上ないのだから、入念精美を要する。たっぷりと時間をかけるべきだ、と。
幸田 文 (著), 青木 玉 (編集)
幸田文しつけ帖
平凡社 (2009/2/5)
P19
大山寺山門
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