私生活 [人生]
私生活というのは、飯を食ったり、排泄したりすることの総和ではない。そんなのが私生活なら犬でもカイコでも私生活はある。
私生活とは、チャンとした考え方、それを大きくは人生観、小さくは処世法とでもいおう、そうしたものによって、キチンと律せられた生活を私生活というのだ。
二十年勤続の銀行員が、無味乾燥な一日のつとめを終えて、家の小さな庭でボンサイを楽しんだり、同好を誘って句会に出かける。
それが私生活だ。魂の安らぎをもとめて静かに聖典を誦し永遠へ思索を参入させる。
これもすぐれた私生活だし、享楽を人生の目的としている人物が、暮夜ひそかに走ってバーの扉を押し、キャバレーで乱痴気さわぎをするのも、厳然たる私生活である。
司馬遼太郎が考えたこと〈1〉エッセイ1953.10~1961.10
司馬遼太郎 (著)
新潮社 (2004/12/22)
P58
望雲台>
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