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ワーカホリックと労働時間規制 [社会]

 長時間労働の問題を考える上では、労働者がワーカホリック(仕事中毒)になっているか、そうでないかが重要である。ワーカホリックとは、長時間労働をすると労働それ自体が苦痛でなくなってくるというアルコールや喫煙と似た依存症である。

競争と公平感―市場経済の本当のメリット
大竹 文雄 (著)
中央公論新社 (2010/3/1)
P177

P178
 まず、労働者がワーカホリックでない場合に、労働時間規制が必要かどうかを考えてみよう。
労働者がワーカホリックでない場合、もし競争的な労働市場が成立していたのなら、意に反して長時間労働させられる会社があれば、その会社をやめて他の会社に勤めることができる。
 長時間労働で高賃金である正社員と、短時間労働で低賃金である非正規社員との間で働き方を選択することも可能である。誰でも短時間労働で高賃金の仕事を選びたいが、それほど現実は甘くない。逆に、低賃金労働だからこそ長時間働きたいという労働者や、高賃金が一時的なものだと知っているからこそ長時間働く労働者もいる(「プロローグ」での述べた人気タレントがその例)。
そうした人たちが長時間働くという選択を制限する必要性はどこにもない。
ワーカホリックの問題がなく、自分で労働時間を選べるだけの競争的な労働市場が存在しているのであれば、労働時間規制の必要はどこにもない。
~中略~
 もし、ワーカホリックの問題がなければ、労働市場を競争的にすれば、労働時間規制の必要性は小さくなる。
競争的な労働市場があれば、労働者の健康を守るためには、職場の健康情報を開示させるか、労働による健康悪化の費用を企業に負担させることが直接的な対応策である。
 労働者がワーカホリックになる可能性がある場合に、労働時間を抑制するような政策は正当化できるだろうか。ワーカホリックになって本人が健康を害してしまう場合には、その健康リスクを企業に負担させることが直接的な解決方法である。
~中略~
ワーカホリックになった本人が健康を害してしまうと問題を生じるが、周囲はワーカホリックの社員が健康を害さない程度に長時間働いてくれることを一番歓迎する。ワーカホリックになった本人は、仕事が苦にならないのだから問題ない。 この場合、ワーカホリックを減らすべき必要性はない。
 問題になるのは。ワーカホリックになった人が昇進して、職場全体を長時間労働させる権力をもった場合である。
この場合、部下の多くは長時間労働を望んでもいないのに、ワーカホリックの上司のために残業させられ帰宅できない、という負の外部性が発生する。これが多くの職場で観察される現象ではないだろうか。
 家庭におけるワーカホリックの外部性も、プラスの効果とマイナスの効果がある。プラスの効果は、夫(妻)がワーカホリックになった妻(夫)にとって、その分所得が増え、より多くの消費ができることである。マイナスの効果は、配偶者と余暇を共有できないこと、配偶者が家事をしてくれないことである。
~中略~
ハマメッシュ教授とスレムロイッド教授は、高所得者ほどワーカホリックになりやすいのであれば、累進所得税をかけることがワーカホリック対策として有効であると主張している。
累進所得税は、高所得層の労働意欲を削ぐことになり、彼らがワーカホリックになる比率を引き下げる。そうすると、高所得である管理職のワーカホリックが減って、部下が望んでいない職場での長時間労働も減るということになる。
 日本の所得税制の累進度は九〇年代後半から低下してきた。長時間労働が問題になりだしたのも九〇年代からである。
ひょっとすると所得税がフラット化したことが、日本の管理職のワーカホリックを増やして、その部下たちの長時間労働問題が深刻化したのかもしれない。

P188
 長時間労働することは、所得の上昇につながる可能性があることもあって、それを規制することに対する拒否反応は強い。実際、すでに紹介したように日本の九〇年代の不況が労働時間規制によって発生したという研究もあるくらいだ。
ところが、長時間労働が他人に迷惑をかけているのであれば、何とかして対策を考える必要がある。~中略~
 長時間労働が必ずしも生産性を高めていない上に、他の社員に迷惑をかけている場合には、残業をしにくくするような仕組みを作ったり、残業時間を管理できない管理職の評価を下げたり、責任を明確にして不必要な会議を減らすことが必要ではないだろうか。


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