政府の役割 [社会]
P67
無政府主義の理想とする社会では、権力の組織がないのだから、つまり、君主もなければ、大統領もなく、議会もなければ、裁判所もないということになる。
もしも、クロポトキンなどの説くように、それで世の中の平和が完全に保たれ、人々の自発的な協力と援助とによって、社会の福祉がおのずから増進してゆくものであるならば、政府などというものは不用となるであろう。政府がなければ、権力をもって人民を圧迫する危険も起らないにきまっている。
しかし、政府がなくてすむのは、理想の社会である。現実の社会では、人々の間に意見の対立が生じ、利害の衝突が起る。その場合、すべての人々の言い分を通すわけにはいかない以上、その多数が支持する考えを実行することと定め、それに反対の、もしくはそれとは違う意見を持つ他の人々も、その考えに従うべきものとし、あくまでも反対する人びとに対しては、その決定を強制してゆかなければならない。
このように社会的な強制力を持った組織が、政府である。だから、社会的な強制力の必要がないほどまで人間の世の中が完全になるまでは、政府の必要はなくならない。
P90
法律を作るのは、国会のいちばんだいじな仕事であるが、いくらよい法律を作っても、その運用のしかたが悪ければ、政治の効果は決してあがらない。
ところで、法律を運用するには、一方に裁判所があるが、実際の政治の方面で法律の執行をつかさどるのは政府である。
したがって、政治が円滑に行われるためには、国会と政府との間の呼吸がうまく合ってゆくことが必要である。そこで、多くの民主国家では、国会と調子のあった政府を作ることができるようなしくみになっている。
日本の新憲法で、「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する」ことになっているのも、そのためである。
だから、国民が国会議員を選挙するのは、ただの国会議員を選んでいるだけではなくて、それと同時に、直接に政治をつかさどる政府の首脳者を選ぶことになるのである。
民主主義
文部省 (著)
KADOKAWA (2018/10/24)
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